昭和医科大学医学部物理(旧昭和大学医学部)(2025年度/Ⅱ期)-入試情報
出題形式
答えのみ記述
試験時間
70分(理科2科目140分)
難度(5段階)
1.8(やや易しい)※
分量(必要時間)
40分(少ない)※
合格に要する正答率予想
87% ※
大問数
4問
出題内容
力学、波動、原子物理
求められているもの
特有なクセやわかりにくさの全くない洗練された問題で構成されている,完成された入試である。標準的な問題集による演習経験だけで満点を取ることができる。受験生には厳しい本質を問うような鋭い出題はない。試験時間にもかなり余裕があるため,苦手な問題から逃げることはできない。多少の計算ミスは仕方ないが,基本的には満点ゲームである。多少時間がかかっても状況を的確に把握し,ヒューマンエラーを最小限に,幅広く学んだことを正確に行使する能力を重視していると考えられる。
※難度、分量、合格正答率は講師コメント・編集部推定。
昭和医科大学医学部物理(旧昭和大学医学部)(2025年度/I期)-入試情報
出題形式
答えのみ記述・論述
試験時間
70分(理科2科目140分)
難度(5段階)
2.7(標準)※
分量(必要時間)
58分(やや少ない)※
合格に要する正答率予想
75% ※
大問数
4問
出題内容
力学、電磁気学、波動
求められているもの
第1問(5)(6)を除いて大半が典型的な問題で構成されており,標準的な問題集で演習経験だけで解くことができる。問題数に対して試験時間にも余裕があるため,第1問(5)(6)を除いて完答も可能である。現象を的確に把握し,正確に計算する能力を重視していると考えられる。
※難度、分量、合格正答率は講師コメント・編集部推定。
昭和医科大学医学部物理(旧昭和大学医学部)(2024年度/I期)-入試情報
出題形式
答えのみ記述・論述
試験時間
70分(理科2科目140分)
難度(5段階)
2.4(やや易しい)※
分量(必要時間)
45分(やや少ない)※
合格に要する正答率予想
80% ※
大問数
4問
出題内容
力学、電磁気学、熱力学、原子物理
求められているもの
第1問Bを除いて大半が典型的な問題で構成されており,標準的な問題集で演習経験だけで解くことができる。問題数に対して試験時間にも余裕があるため,第1問Bを除いて完答も可能である。現象を的確に把握し,正確に計算する能力を重視していると考えられる。
※難度、分量、合格正答率は講師コメント・編集部推定。
今月は医学部専門予備校D組物理科講師の三宅 唯先生に昭和医科大学物理の入試対策をお聞きしました。
記述試験の実施の大変さ
三宅先生よろしくお願いいたします。三宅先生から見た昭和医科大学の物理の入試はどのような姿ですか。

そうですね。私が注目しているのはまず,昭和医科大学の解答様式です。概ね過程の記述を要さない答えのみの記述ですが,このご時世にマークシートではなく完全記述形式で物理の試験を実施しているのは私大医学部の中では珍しい方です。きっと二次試験だけじゃなくて一次の学科試験においても受験生の個性を見ようと努力されているのだと思います。どう考えても試験実施はマークシートの方が楽で安上がりですからね。受験者数はおそらく毎年3000人以上はいると思うので,採点する側はとても大変だと思います。それでもやる価値があると思ってやっているのでしょう。
答えのみの記述でも意味がある
昭和医科大学は記述試験にどんな価値を見出しているのでしょうか。

そうですね。これは昭和医科大学のアドミッションポリシーの一つなのだと思っています。私個人的にはとても好印象です。私も模試の作問や監修や採点などたくさんの経験をしてきましたからわかります。例え,途中過程の記述を課さない「答えのみの記述」であっても答案からその受験生の多くの情報が読み取れるのです。答えのみ記述とは数センチ四方の小さな解答欄にそれぞれの問いに対する答えを書くだけの記述形式です。途中過程は書かせません。
不正解の中に学力の違いを見出せる記述式
「答えだけ記述」であっても受験生の学力が細かく読み取れるのですか?不思議です。数学や物理と言えば「合っているものは合っている,間違っているものは間違っている」というYES,NOがつきやすいように感じますが。
そうなんですよね。こういう話をすると不思議な顔をされるのですが,おそらく多くの方は「正解の中での違い」の読み取りを想像されているのでしょう。これは実際に思いを込めてオリジナルで作問をして丁寧に採点をしてはじめてわかることですから不思議に思われても仕方ないです。もちろん,正解の中にもわずかな優劣というか個性を感じることもあるのですが,それよりもずっと強く感じ取れるのが「不正解の中での違い」です。不正解であっても自分なりの答えを書いてさえすれば「どこでミスが生まれたのか」「どこまでを正しく考えられていたのか」と,そういった受験生の考察過程がありありと見えてきます。
マークシート方式はモザイクテスト
なるほど。不正解の中にも受験生のポテンシャルを知れるわけですね。するとそれが採点にも生かされるわけですね。

そうなんです。答えのみの記述でも採点者は柔軟に部分点を与えることができるのです。部分点があることは素晴らしいことです。不正解で1点も入らなければその問題にかけた時間がすべて水の泡になりますから。極端に言えば,マークシートですと,すべての問題において8割ぐらいまで解答に近づいたけれども1問も正解をマークできなかった受験生は0点です。しかし記述試験であるとしっかりと部分点がもらえるはずです。これは大きな差です。マークシート方式はこういった点で「解像度の低いモザイクテスト」と言っても過言ではありません。
記述試験は受験生の可能性を見ようとする取り組み
すると受験者の多い昭和医科大学が記述試験を現在でも実施しているのは英断ですね。
だと思います。言わずもがな「まったく理解していない人間」と「解答までもう少し」の人間とは全然違うわけです。高校物理は所詮高校物理なので受験生に完成された物理の力を求めること自体がおかしな話です。物理らしい考察と科学的姿勢は長い時間をかけて醸成されるものであり,どんなに賢くとも数年勉強したぐらいで簡単に身につくものではありません。多少の理解不足があっても大目に見てほしいものです。そういった観点からすれば,昭和医科大学はまだまだ科学の初心者である「もう少し」の受験生に寛容であるわけです。記述形式にすることで入試を「解像度の低い運ゲー」にしない。まだまだ科学に対して未熟な受験生のこれからの可能性を見つけてくれる。昭和医科大学の入試に対する取り組みにはそういった意味があるのかもしれません。
昭和医科大学は理科試験時間がたっぷり
なるほど。受験生の個性を見ようと努力しているのですね。すると昭和医科大学はマーク・記述といった試験方式以外にもそのような取り組みをしているのでしょうか。
ええ。私が思うに試験時間が十分であるのも昭和医科大学の魅力です。下表のように私立医学部では理科2科120分でないところが珍しいです。
【 私立医学部 理科試験時間ランキング 】
1位 聖マリアンナ医科大学 理科2科選択150分 1科あたり75分 2位 昭和医科大学 理科2科選択140分 1科あたり70分 2位 東海大学医学部 理科1科選択 70分 1科あたり70分 … 25位 杏林大学 理科2科選択100分 1科あたり50分 25位 愛知医科大学 理科2科選択100分 1科あたり50分 25位 北里大学 理科2科選択100分 1科あたり50分 28位 金沢医科大学 理科2科選択 90分 1科あたり45分 28位 埼玉医科大学 理科2科選択 90分 1科あたり45分
私立医学部の物理入試では典型的な出題が多く,学習が十分であれば速やかに解ける問題がほとんどです。問題によって波があり,極端に解答に時間のかかる小問もわずかにみられますが,それは合否に関係しない小問です。そういった小問を除いて解くべき問題だけで考えれば,物理の小問は平均2分ぐらいで解けるものだけになります。すると制限時間が標準より10分多い昭和医科大学では小問が5問多く解けることになります。
解き終わらない悪夢と悲劇を生まない試験
なるほど。脊髄反射で答えを書いていくのではなく,受験生がゆっくりとしっかり考えながら解くことができるように試験時間が用意されているのですね。
まさにその通りです。ではその分,問題が多いかというと,そんなことはないのです。D組の誇る分析シートによると,完答できる優秀な受験生が完答に要する時間の推定値は,
【昭和医科大学】
2024年2月2日実施 Ⅰ期試験 完答45分/試験70分 2025年2月7日実施 Ⅰ期試験 完答58分/試験70分 2025年3月1日実施 Ⅱ期試験 完答40分/試験70分
となっています。なんと試験時間が十分なだけでなく,量が少ないのです。他の私立医学部はどうでしょうか。一つ例をあげましょう。
【東京医科大学】
2024年2月7日実施 一般試験 完答73分/試験60分 2025年2月5日実施 一般試験 完答110分/試験60分
これは決して極端な例示ではありません。私立医学部では制限時間に比して解き終わらない量の問題を出すことは珍しいことではないのです。むしろ昭和医科大学が珍しいのです。こんなに考える時間をじっくりとれる入試を私は他には知りません。昭和医科大学は,記述形式で習熟度をしっかり見るだけでなく,「もう少しだったけど時間がなくて解き終えることができなかった」という悲劇を生まない取り組みをしているのです。すべての受験生がその実力を発揮するために十分な時間が用意されているのです。
しかも難度も高くない至れり尽せり
時間が多ければ分量は多いのだろうと思いましたが,そうではないんですね。うまい話過ぎて怖いです。

そうですね。そんなうまい話ばかりではないはずです。では難度としては高いのか。たとえ分量が少なくても難度が高ければ高得点は取りにくい試験となりますね。しかし,D組の分析シートでは分量ではなく「解くのに実際にかかるだろう時間」が記載されています。難度が高ければ時間がかかるので試験時間より著しく少ないのは説明がつきません。そうです。なんと昭和医科大学の物理の出題は私立医学部の中でもかなり易しい方なのです。どこまでいってもうまい話です。
やさしすぎて怖い昭和医科大学
おそろしい…。ここまでくると恐ろしいですね。やさしすぎて怖い歌のお兄さんみたいです。
そうですね。歌のお兄さんは概ね怖くはないと思いますが,昭和医科大学は,昔は難しい問題を出していました。ジャックナイフのようにとがっていた頃もあったのです。誰しも若い頃はとがっているものです。私が昭和医科大学の物理でよく思い出すのは2008年の第1問です。

こういう仕事は入試物理ではエネルギー変化から逆算するのがオーソドックスなのですが,昭和医科大学はどうしても積分させたかったようです。「やはり医学部生を目指すものとしては,高校数学で扱う程度の微分積分ぐらいは息をするように当たり前にできなければいけないということなんだなぁ」という感想を持ちました。
インテグラルへの熱い想い
物理だけでなく数学力も必要だということですね。
その通りです。物理に数学力が必要なこと,それ自体は珍しいことではないのですが,ここまで露骨に「積分を実行しろ」と誘導してくる大学は極めて珍しいものです。しかも,三角形や台形の面積に帰着するような極端に簡単な積分ではないのが特徴です。昭和医科大学は他の年度でも頻繁に積分をしてほしそうな雰囲気を醸し出しています。こちらは2019年第2問です。

これは2008年の力学の問題に比べればずっと簡単な積分です。ポリトロープ変化において気体がした仕事ですね。近年徐々に問題の難度は易化傾向にありますが,どうしても積分だけは出題したいようです。記号∫(インテグラル)をコンスタントに出題し続けています。もしかして「インテグラルは美しく至高」という信仰でもあるんですかね。でなければわざわざ試験問題の文章内に∫をこうも頻繁に書かないですよね。ちなみに昭和とは関係ありませんが私はインテグラルが大好きです。バイオリンの穴もずっとインテグラルだと思っていました。よく見たら横に棒が入っていてエフでした。

微分積分に素直になれ
なるほど!その日本積分大学を受験するにあたっては何か対策的なものはどうなんでしょうか。
そうですね。では受験生はどのように対策すればいいか。結果から言えば特別な勉強はいりません。物理を物理らしく普通に勉強していれば勝手に微分や積分の概念は出てくるので「それを微分積分と認識するかどうか」という個人の認識の問題です。たまに「俺は物理に微分積分は使わない」と言い張る人物を見かけるのですが,大変個性的な認識をされているのでしょう。傾きを求めても面積を計算しても「それは微分積分とは言わない」と言い張り続けるのでしょう。「もう認めちゃえよ」「素直になれよ」って言いたいです。とにかく普通に物理を勉強していたら微分積分の概念は獲得できるので,あとはそれを微分積分だと思って計算するかどうかの認識の問題なのです。物理をそれなりに勉強してきたのなら昭和医科大学の物理の積分も恐れることはありません。対策など要りません。
出題の雰囲気
なるほど。私立医学部の中で物理の解きやすさとしては,昭和医科大学はどうなんでしょうか。
そうですね。近年の問題の質としては「入試典型を親切に出題している」という印象です。理由記述など答えにくい出題もありますが,全体の割合から考えますとほんのわずかです。基本的には大問がゴチャゴチャしておらず,見通しが立ちやすい一貫したテーマで出題されています。標準的な問題演習で十分に対応できます。また,物理は基礎が難しく応用が比較的簡単なのですが,どちらかといえば昭和医科大学は応用的な出題に傾倒しています。結果として昭和医科大学の問題が難しいと感じるようならば医学部受験生として単純に勉強不足です。直前期にそう感じるならば今期の合格は難しいかもしれませんが,直前期に無理に付け焼刃な勉強をしても,試験がうまくいくことはないですし,自分にとっても身につくものがありませんから,次期を意識して基礎からしっかりと物理の学び直しをしましょう。
一次正規合格に必要な正答率
直前だからといって大慌てしても急いては事を仕損じるというやつですね。さて,昭和医科大学の「記述形式で部分点を狙え,試験時間は問題の分量に比べて十分であり,かつ典型的で解きやすい」という至れり尽くせりの物理試験。受験生にとって有利だと考えていいのでしょうか。
そうなんですよ。これはそうとは言えないことに注意してください。D組分析シートでは合格に要する正答率を次のように予想しています。
一次合格に必要な正答率(予想)
2024年2月2日実施 Ⅰ期試験 80% 2025年2月7日実施 Ⅰ期試験 75% 2025年3月1日実施 Ⅱ期試験 87%
昭和医科大学はⅡ期試験だからといって問題が難しくなることはありません。むしろ易しかったりするくらいです。しかし後期試験の倍率は跳ね上がるものですから,必要な正答率も高く算定してあります。いずれにせよ,合格には極めて高い正答率を要するわけです。
昭和医科大学の怖さ①
こまりましたね。優しいお兄さんというよりやはり怖いお兄さんですね。
そうです。まず,苦手な分野があるけど得意な分野でカバーするという戦法が全く通用しません。全範囲を網羅的に勉強する必要があります。しかし人は誰しも偏っているものです。興味が偏っていると成績も偏ります。この偏りをなくすためには根本的に性格を変えるレベルの意識改革が必要です。「私にできないことなどあってはならない」とプライドを強く持ち,常に自分に相応しい学習ができているかを意識する。大変なことですが,現状偏りがある受験生は,意識改革をやり通すか,諦めて別の大学を受けるか,それだけです。偏っていてもハンデにならない大学もあります。得意分野における鋭い学力を認めてくれる大学もあるのです。私立医学部といっても十把一絡げにはできません。
昭和医科大学の怖さ②
ああ。何とか諦めたくない受験生はどうすればいいのでしょうか。

どうしようもありませんね。網羅的な学習ができればいいだけの話ではありませんからね。気を確かに持ってくださいとしか言いようがありません。なにしろ,すべての内容が理解できていても正答率80%は難しいものです。ケアレスミスなどできないのです。ですから,日頃の演習においてもかなりミスに気を配っていなければなりません。時間に気を配る必要はありません。優先すべきは解答速度よりも解答精度です。解法がわからないはおろか,些細な間違いも許されないのです。問題が易しいとはそういうことです。実力がしっかり現れる最高の試験は,実力がしっかり現れてしまう最悪の試験なのです。学力の低いものに逃げ場はありません。気を確かに地に足のついた勉強をされてください。難しいものから逃げる癖のある方は入学が難しい気がします。体当たりで実力をつけてください。
謎の受験診断テスト
ありがとうございます。最後に三宅唯先生から何かありますか。
うーん。では最後に今回のまとめのようなものを。以下は昭和医科大学に向いているかどうかの適当なテストです。役立つかどうか怪しいものですが受験校決定にお役立てください。
問1.以下の選択肢のうち,あてはまるものが4つ以上あれば昭和医科大学を受験しなさい。
① 苦手意識なく物理を網羅的に勉強できた
② ミスをしないことに執着心がある
③ 難問ではなく典型問題を中心に演習した
④ 微分積分を使う物理に抵抗がない
⑤ 焦らずゆっくり考えるのに向いている
⑥ インテグラルが美しいと思う
⑦ 富士山麓で寮生活がしたい

なるほど,三宅 唯先生ありがとうございました。引き続きD組の医学部受験生たちにも熱意あるご指導をよろしくお願いいたします。
医学部専門予備校D組では現在の成績に関係なく10人程度の少人数クラスで三宅 唯先生の物理の対面講義を受けることができます。少人数制だからこそ可能なきめ細やかな指導と,質疑応答の時間を豊富に設けることで生徒一人ひとりの理解度を深め,着実に実力アップを目指します。さらに,アットホームな雰囲気の中で周りの生徒と切磋琢磨しながら学ぶことができるのもD組の魅力です。